サ・ルサリアへの凱旋を果たし、女王に東大陸討伐の勝利を報告したキュウカは、そのまま国都へと留まり、主将として戦の末に得た領土の分配と論功行賞の務めを果たします。
キュウカは、サイフォンを始めとする腹心の将達に、その功積への恩賞として爵位を与えると共に、東大陸南方諸国の東海岸沿いの郡領の全てに彼等を領主として配する事を求めます。
そして、残りの領土に対しては、ヴァーナード伯の功積を最高のモノとして諸侯達へと割譲する事を提案しました。
キュウカの量ったその論功行賞に於いて、彼自身は東大陸内に一握りの領土を得る事も無く、それを慮った女王に対し、キュウカは言いました。
『私自身が領土を得るのも、私の腹心たる者達が領土を得るのも、何らその意味に変わりはありません』と。
それでも彼に対し、何らかの恩賞を与えなくてはならないと考える女王に、キュウカは、『それでは、女王陛下直々の宣告を以って、私を正式にサッペンハイムの公爵に御命じ下さい』と求め、それを許されます。
そのキュウカの求める事に適った論功行賞によって、東大陸に於ける領土の分配は以下の形となりました。
東大陸北方と南方を分かつ要衝たる大砦城守衛の都督を担うサイフォンが領土最北の領郡より南の二郡を領し、それに東沿岸となり連なる南方の三郡をウリョウ、その南方一郡ずつを其々にガルズ・ラズウィル・ディフ・ヒユウ以下の功積ある諸将が連なる形で領有し、サイフォンの領郡の真南よりアルス・ヴァーナード伯が二郡、そして残る地を諸侯達がその功積によって分配。
結果、戦いによって得られた領土の三分の一をキュウカの宿将達が領有し、残りの三分の二を諸侯達が領有する事となりました。
しかし、キュウカが自分達サッペンハイム軍の功積を抑えて、諸侯達に多大な領土を割譲する論功行賞の決定には、宿将達には完全な統治権が与えられるのに対し、諸侯達にはそれを認めず、更にはガルズ・ラズウィルの二人を以って、その統治を監理する地位に置く事が条件として加えられました。
諸侯達はこれを受け入れ、残りの論功行賞は各領主達が自らの配下の者達に施すのみとなり、各々がその所領へと帰還するべく国都を離れます。
それはキュウカも又同じで、女王への挨拶を無事済ませると、諸将と共に公領への帰還の途に着きました。
サッペンハイムへの帰路の途中にて、キュウカは、長い戦いの日々の疲れからか体調を崩し、軽い病の身となってしまいます。
それを案じるサイフォン達に、キュウカは、心配要らないと笑って応えますが、サッペンハイムに戻った後も彼の病は快癒する事無く、そのまま小康の状態を保つのみとなります。
そうしてキュウカが病身を休める日々は凱旋の日より、早くも半年を数える事となりました。
そんな病床の身にあるキュウカより、サイフォン達諸臣に公都への招集がかけられます。
それに従い集った諸臣に対し、キュウカは、彼等と出会ってから今日に至るまでの想い出を親しく語ると共に、今後の事に対する様々なことを計ります。
そして、諸侯の身にある重臣達に対し、自分が亡き後の五年を期に東大陸連合国が失った領土奪還の戦を起こす事を予言すると、その時に自分の後継者であるシジェンに大将としての器が備わって無かったならば、サイフォン・ウリョウの二人を将としてそれに抗し、各々の処断を以ってその領土を守衛する事を命じました。
キュウカから後事を託されたサイフォン・ウリョウの二人は、『我等の持てる力の全てを尽くし、必ずやその命を果たして見せます』と固く誓いました。
重臣達を下がらせた後、キュウカは、公爵たる自分の後を継いでサペンハイムを治める事となるシジェンをその枕許に呼びます。
そして、サイフォン以下の諸臣達の忠義の篤さとその優れた才能の如何を語って聴かせると、『サイフォン・ウリョウの二人は、私が最も信じ頼りとしてきた者達であり、その言葉は常に深慮遠謀に満ちていた。だから、これより先、公爵となったならば、彼等の言葉はこの私の言葉より重きモノとして、必ずそれに耳を傾けよ。そうすれば、彼等も必ずお前に報いてくれるだろう』と言い聞かせました。
それに真摯に頷き、心に刻みつけながらも、自らの未熟と不才に公爵となる事に怖じるシジェンに対し、キュウカは、『兵を率いて戦場に勝敗を決する将としての才では、お前はこの私には及ばないだろう。しかし、臣下の心を一つにまとめて一国の政を治める王としての才では、お前はいつかこの私を凌ぐだろう。今は唯焦らず、その心にある他者に対する情けの在り様を大切にしなさい』と告げます。
更にキュウカは、『汝が父母を敬う如く他者の父母を敬い、汝の子を慈しむが如く他者の子を慈しめ。さすればそれ必ず汝の助けとなるであろう』と教え諭しました。
そして最後に、『我が四貴妃は愛情深く、お前を実のこの如くに慈しんでくれる者達であり、その子達はお前を実の兄の如くに慕うであろう。どうかこの私に代わって、このサッペンハイム公爵領の主となり、その臣民と我が最愛なる者達の父兄としての務めを果たしてはしい』と告げて、シジェンへと亡き先代の大公より預かった公領の後事に於ける全てを託しました。
キュウカの抱く信頼に応えてシジェンは、必ず公爵としての使命を全うする事を誓いました。
キュウカは、シジェンの応えに満足すると、彼を下がらせてシェーリーを呼びます。
そして、自らの人生に於ける最後の無念を晴らすべく、その想いを示す証としての『遺志』を彼女へと託しました。
キュウカがその身に背負った公爵としての使命をシジェンへと託してより半月余。
キュウカは、自らの生命が尽きようとしている事を悟り、その枕元に皆を集めました。
そして、今生の別れを惜しむべく其々に杯を与えました。
キュウカの身に訪れようとして死に対し、そこに集った者達の全てが嘆かずにはいられませんでした。
自分の死を悼み、その宿命を与えた上天の非情さを憾む者達をキュウカは嗜めて言います。
『私は、この身に与えられた宿命を知った師より下された情けに逆らい、自らの想いを貫き生きることを選んだ。それは正に千の味方の死と引き換えに万の敵を倒して望む想いであり、人間として望む事を忌むべきモノであった。しかしながら、情け深き上天は、私にこの様な穏やかな最後を許してくれた。今こうして、皆に囲まれあの美しき空の下で去り逝く事ができるこの身の幸いを思えば、この終焉を如何して夭折と嘆く必要があろうか』と。
その言葉が指し示すように、サッペンハイムの上天に広がる空は、いつにも増して美しい姿をしていました。
キュウカは、そんな蒼天の空を見上げていた眼差しを四貴妃とその子供達に向けると、そこに僅かな憂えを宿して言葉を続けます。
『唯一つ、残念でならないのは、未だ幼き子供達に対し、父としてこれ以上何もしてやれない事だけだ』と。
そんな言葉を告げて子供達を慈しむキュウカの姿を目の当たりにして、皆が悲哀の想いを抱きます。
『叶う事ならば、再び人間として生まれ、幸いにもその親となれたならば、その時こそ愛しい我が子の為に尽くしたいモノだ』とキュウカは更に続けます。
その言葉を聴いた者達の心は、再び彼が人間として生を受ける事があるならば、その時こそ、その未練を叶えさせる為に自分も人間として生を受けたいという強い想いで満たされました。
『本当に、皆と別れるのは淋しい限りであるが、これを今生最後の杯として飲み干し、先に眠らせて貰おう。では、皆笑って見送ってくれ』
キュウカは、そう告げて手中の杯を飲み干すと静かに目を閉じました。
その穏やかな笑みの許、キュウカは、疲れた魂を癒すべく永遠の眠りへと就きました。
齢、三十にも満たないその短い生涯に於いて、誰よりも峻烈なる生き様を貫いた稀代の英雄、《軍神・キュウカ》は、斯くも穏やかな最後を迎えたのでした。
この後、キュウカは、サ・ルサリア女王より、その多大なる功積に報いる為として、地位を『公王』へと進める特別の取り計らいを受けます。
そして、その地位は彼の後継者であるシジェンへと受け継がれました。
嘗て、南海の小群島国に真なる自由に培われた理想郷を創らんとして戦った一人の英雄が居りました。 その名は、キュウカ。 自らを隠号して、『至聖』と名乗る。 その生涯に於いて、戦場に身を置き勝敗を求める事、大小を合わせて六十余度、その内に敗れる事は唯一度という類い希なる将器を誇る。 彼を良く知る者、その戦場に於ける振る舞いを讃えて《軍神》と呼び、大いに畏敬する。 彼の者、何も持たざる身に始まり、遂には、他者の遠く及ばぬその偉業を以って、その声望は、一万年の後に及んでこれに並ぶ者無き人世の真なる王者と讃えられるに至った。
2008年1月3日木曜日
2008年1月2日水曜日
軍神記‐叙伝‐第十七話
その護りの要たる砦城を奪われた東大陸連合国が、幾度となく奪還の戦いをキュウカへと仕掛けますが、鉄壁の護りを誇るキュウカ軍は、それを尽く退けました。
無某に無謀を重ねる連合国軍の有り様を目の当たりにしたキュウカの心に、何よりも自らの故国を愛し、それに対する誇りに生きたアタウの姿が甦ります。
そして、キュウカは、ここに及んで一つの大きな決断を下しました。
それは、戦いの矛を収め、東大陸連合国との和睦を結ぶという討伐戦終結への道標を示す決断でした。
キュウカはその意志を量るべく、諸将・諸侯の全てを自らの本陣へと集めます。
そこでキュウカは、この度の戦の大局は既に定まり、これ以上、徒に戦いを長引かせる事の無意味を皆に解きました。
集った者達の多くが、完全なる勝利を目の前にして自ら退こうとするキュウカの意見に驚きの想いを抱きます。
それはサイフォンを始めとする腹心の将達も又同じでした。
『この戦いに於いて重ねてきた勝利は、天が与えた幸い。それによって得た好機を捨てるのは早計ではありませんか?』
サイフォンの口から出たその諌めの言葉にキュウカは、真直ぐにして尚穏やかな眼差しを示し応えます。
『確かにサイフォン、お前のいう事は道理だ。しかし、この東大陸討伐の戦いに臨むべく故郷の地を離れてより早くも二年余の歳月が過ぎた。それでも尚、今、我が許に在る将兵達の士気は高く、この先の戦に憂えるモノは無い事は、私も良く分かっている。しかし、その将兵達の心は、片時も故郷に残した大切な者達への想いを忘れる事は無いだろう。そして、宿敵である連合国の将兵達にも、我等と同じ様に大切に想い大切に想ってくれている存在がある筈だ。他者に与えた恩義は忘れられ易いが、他者から与えられた怨悪は忘れられ難いモノ。我等が東大陸に住まう無辜の者達に与えた報いの怨嗟を思えば、我等の勝者たる証を示す為にも敢えて退く事も必要なのではないか?』と。
諸将・諸侯の多くが、キュウカが抱いた人間としての真摯にして高潔なるその想いに心を動かされます。
『故国を思い、その宿敵を打ち滅ぼさんと望む諸君等の想いも分かる。しかし、私は、これ以上、この眼に無益な戦いによって積み重ねられる屍の姿を映すことに耐えられないのだ。如何かこの私の想いを分かって欲しい』
キュウカの深い想いによって紡がれたその言葉に逆らう者は存在しませんでした。
皆の合意を得たキュウカは、直ぐに捕らえた人質の中から連合国への使者に相応しき者を選び出すと、和睦の条件を認めた書簡を盟主の許へと届けさせると共に、外に陣を置く敵の将兵達に和睦を図る意志を伝え、これ以上の戦いを望まぬ事を宣言します。
最早、戦の勝利も望めずさりとて退く事すら許されていない連合国軍の将兵達は、キュウカの意志に心の奥で感謝しました。
キュウカより、東大陸連合国の盟主に対し示された和睦の条件は次の通りでした。
一つ、盟主自らの自筆を以って、サ・ルサリア全土及びこの度の戦でサ・ルサリアが得た領土の全てに対し、今後一切、正義に乗っ取った理由無くしてこれを侵さぬ事を誓った誓紙を認めること。
一つ、サ・ルサリア王と東大陸連合国の盟主の貴尊の位は飽くまで等しく、これに対し不遜を行う者が在れば、不遜を受けし方の国法を以ってこれを咎める事を認めること。
一つ、この度の戦に於いて戦場に破れし者達の名誉を重んじ、両国に於いて敵・味方の別無くその勇気を讃え、これに恥辱を加える事無きこと。
キュウカは、その三条の誓いを以って、祖国領土の平穏を得、主の名誉を高め、そして、戦場に散った者達の魂を慰める事のみを望みました。
それを受けた盟主国の王は、キュウカの武威とそれに逆らい、自らの地位を危うくする事を懼れ、終に和睦を受け入れる事を決断しました。
こうして、キュウカは、長き戦いの末に、亡き大公の願いに報いるというその宿願を果たしたのでした。
キュウカは、領土防衛の要としてウリョウを東大陸に止め置くと、他の諸将・諸侯達と共にサ・ルサリアへの凱旋の帰路に着きます。
そのキュウカの威風堂々たる凱旋の様子を一目でも見ようと集った人々に対し、彼は、一軍の将としてではなく、唯一人の人間として思慮深い振る舞いを示しました。
その姿を目の当たりにした東大陸の新たなる民達は、心から彼に親しみ従う事を求めるようになりました。
自らの凱旋を迎えるサッペンハイムと故国サ・ルサリアの民衆達の歓声をその身に受けながら、キュウカは、その心に愛して止まなかったサ・ルサリアの蒼く澄んだ空を見上げて穏やかに微笑みます。
そこには、生まれながらにして何も持たざる身であった彼が、本当の意味で還るべき『故郷』を得たその歓びの想いが在りました。
無某に無謀を重ねる連合国軍の有り様を目の当たりにしたキュウカの心に、何よりも自らの故国を愛し、それに対する誇りに生きたアタウの姿が甦ります。
そして、キュウカは、ここに及んで一つの大きな決断を下しました。
それは、戦いの矛を収め、東大陸連合国との和睦を結ぶという討伐戦終結への道標を示す決断でした。
キュウカはその意志を量るべく、諸将・諸侯の全てを自らの本陣へと集めます。
そこでキュウカは、この度の戦の大局は既に定まり、これ以上、徒に戦いを長引かせる事の無意味を皆に解きました。
集った者達の多くが、完全なる勝利を目の前にして自ら退こうとするキュウカの意見に驚きの想いを抱きます。
それはサイフォンを始めとする腹心の将達も又同じでした。
『この戦いに於いて重ねてきた勝利は、天が与えた幸い。それによって得た好機を捨てるのは早計ではありませんか?』
サイフォンの口から出たその諌めの言葉にキュウカは、真直ぐにして尚穏やかな眼差しを示し応えます。
『確かにサイフォン、お前のいう事は道理だ。しかし、この東大陸討伐の戦いに臨むべく故郷の地を離れてより早くも二年余の歳月が過ぎた。それでも尚、今、我が許に在る将兵達の士気は高く、この先の戦に憂えるモノは無い事は、私も良く分かっている。しかし、その将兵達の心は、片時も故郷に残した大切な者達への想いを忘れる事は無いだろう。そして、宿敵である連合国の将兵達にも、我等と同じ様に大切に想い大切に想ってくれている存在がある筈だ。他者に与えた恩義は忘れられ易いが、他者から与えられた怨悪は忘れられ難いモノ。我等が東大陸に住まう無辜の者達に与えた報いの怨嗟を思えば、我等の勝者たる証を示す為にも敢えて退く事も必要なのではないか?』と。
諸将・諸侯の多くが、キュウカが抱いた人間としての真摯にして高潔なるその想いに心を動かされます。
『故国を思い、その宿敵を打ち滅ぼさんと望む諸君等の想いも分かる。しかし、私は、これ以上、この眼に無益な戦いによって積み重ねられる屍の姿を映すことに耐えられないのだ。如何かこの私の想いを分かって欲しい』
キュウカの深い想いによって紡がれたその言葉に逆らう者は存在しませんでした。
皆の合意を得たキュウカは、直ぐに捕らえた人質の中から連合国への使者に相応しき者を選び出すと、和睦の条件を認めた書簡を盟主の許へと届けさせると共に、外に陣を置く敵の将兵達に和睦を図る意志を伝え、これ以上の戦いを望まぬ事を宣言します。
最早、戦の勝利も望めずさりとて退く事すら許されていない連合国軍の将兵達は、キュウカの意志に心の奥で感謝しました。
キュウカより、東大陸連合国の盟主に対し示された和睦の条件は次の通りでした。
一つ、盟主自らの自筆を以って、サ・ルサリア全土及びこの度の戦でサ・ルサリアが得た領土の全てに対し、今後一切、正義に乗っ取った理由無くしてこれを侵さぬ事を誓った誓紙を認めること。
一つ、サ・ルサリア王と東大陸連合国の盟主の貴尊の位は飽くまで等しく、これに対し不遜を行う者が在れば、不遜を受けし方の国法を以ってこれを咎める事を認めること。
一つ、この度の戦に於いて戦場に破れし者達の名誉を重んじ、両国に於いて敵・味方の別無くその勇気を讃え、これに恥辱を加える事無きこと。
キュウカは、その三条の誓いを以って、祖国領土の平穏を得、主の名誉を高め、そして、戦場に散った者達の魂を慰める事のみを望みました。
それを受けた盟主国の王は、キュウカの武威とそれに逆らい、自らの地位を危うくする事を懼れ、終に和睦を受け入れる事を決断しました。
こうして、キュウカは、長き戦いの末に、亡き大公の願いに報いるというその宿願を果たしたのでした。
キュウカは、領土防衛の要としてウリョウを東大陸に止め置くと、他の諸将・諸侯達と共にサ・ルサリアへの凱旋の帰路に着きます。
そのキュウカの威風堂々たる凱旋の様子を一目でも見ようと集った人々に対し、彼は、一軍の将としてではなく、唯一人の人間として思慮深い振る舞いを示しました。
その姿を目の当たりにした東大陸の新たなる民達は、心から彼に親しみ従う事を求めるようになりました。
自らの凱旋を迎えるサッペンハイムと故国サ・ルサリアの民衆達の歓声をその身に受けながら、キュウカは、その心に愛して止まなかったサ・ルサリアの蒼く澄んだ空を見上げて穏やかに微笑みます。
そこには、生まれながらにして何も持たざる身であった彼が、本当の意味で還るべき『故郷』を得たその歓びの想いが在りました。
2008年1月1日火曜日
軍神記‐叙伝‐第十六話
アタウという存在の死を嘆き、その想いに翳る自らの心を晴らせぬキュウカですが、天の幸いを得た四貴妃の懐妊という嬉しき報せに沈んだ心を癒されます。
この世に死に去り逝く生命が在るならば、新たに生まれ出る生命も在る事を想い、キュウカは、その意志を再び奮い起こしました。
キュウカは、その身の大事を考えリレイ・キョウナの二人を戦線より退けると、東大陸連合国との戦いに決着を着けるべく編成を新たにした兵を率いて出陣します。
諸将・諸侯達を連ね進軍するキュウカの姿には、それまでの憂いは微塵も無く、その威風堂々たる様相に彼の再起を疑う者はいませんでした。
キュウカは、先の大戦の敗北によって放置された状態にある東大陸南方諸国の北郡を次々に平定すると、その領郡を慰撫して見事に安定を取り戻しました。
着実なる進軍を以って領土攻略を果たして行くキュウカ軍に対し、連合国軍は、東大陸を南北に分かつ要衝に築いた大砦城に兵力を集めて備えとします。
正に要塞都市と呼ぶに相応しき堅牢な大砦城を目の当たりにして、その攻略の困難さを危ぶむ将兵達に対し、キュウカは、『この世に、人間が護っている限り、落せない城など存在はしない』と大胆な言葉を以って嘯きました。
大砦城の南方にある平原に全軍を展開させる陣容で配置したキュウカは、左右の両翼に備えたサイフォン・ウリョウの両将を副将に任じ、二人に一軍を預けると、『この度に攻めるべきは、堅固なる城に非ず。脆き人間の心だ』と告げた後、各々に敵の砦城の攻略を命じます。
キュウカの命に従いサイフォン達双将の軍が奮戦する中、キュウカは、自らが率いる兵を昼は休ませ、夜陰を待って銅鑼を鳴らし喚声を響かせて敵を乱しました。
キュウカ軍が昼に攻め夜に乱す戦いを続ける事は七日を過ぎますが、未だ敵を攻略する兆しは見えませんでした。
更に敵軍の内では、キュウカの戦法を見て、彼が自分達の籠もる砦城の攻略に対する策を得られず、唯、闇雲に攻撃と攪乱の策を計っているだけだと考える者達が現れ、夜陰に乗じた攪乱の策も効果を薄れさせていきます。
そして、その考えはサ・ルサリア諸侯達を皮切りにキュウカ軍の将兵達の間にも広まり始めますが、その副将たるサイフォン・ウリョウの叱咤鼓舞によって全軍の士気は保たれ続けました。
しかし、攻略の戦いが始まりより二十日を過ぎるに及び、遂に諸侯の内よりキュウカへの不信を語る言葉が現れ、それを鎮めようとしたキュウカに反発し一部の諸侯が配下の兵を率いて戦線を離脱するという事件が起こります。
それに対する諸将と兵達の動揺は大きく、更には、その報せを受けて敵軍の士気は大いに高まりました。
その状況を危ぶみ打開の策を計るべく本営を訪れたサイフォンとウリョウに対し、キュウカは、このままでは全軍の士気が下がり瓦解の危機すらも考えられると、明日の明朝に日が昇ると共に全軍による総攻撃を行うと命じます。
双将は、事の此処に到っては力攻めも致し方ないとキュウカの命を承知し、彼と共にその決戦に臨む覚悟を決めました。
愈々の激しい戦いを覚悟して浅い眠りに身を委ねるサイフォンは、自らの陣の北方、正に敵の砦城より突如として巻き起こった激しい喚声を耳にして、敵軍が討って出たのかと一気に目を覚まします。
その身に鎧を纏い兜に手を掛けるサイフォンの元に、キュウカの使者としてシェーリーが現れました。
キュウカと同じ軽鎧の戦装束に身を包んだシェーリーから、今直ぐ配下の祥兵達を率いて自分と共に出陣するように告げられたサイフォンは、キュウカが敵を欺く為に自分達味方までも欺いていた事を悟り、苦笑を浮かべて快諾します。
シェーリーの案内の元、敵の砦城の西門へと通じる間道を密かに抜けたサイフォンの一軍は、既に開かれた守衛門より一気に中へと攻め込みました。
そこには、南門より攻め込んでいたウリョウの一軍が奮戦する姿が在り、サイフォンに率いられた将兵達もこれと連携して次々に敵の兵を蹴散らしていきます。
更には、キュウカの影武者として、その偽兵の一隊を率いたシェーリーの攪乱によって、敵軍は大いに浮き足立ちました。
混乱し総崩れとなった敵軍の残党を北門より追い散らしたサイフォンとウリョウ達の前に、キュウカと諍い最初に戦線より離脱した筈の諸侯と轡を並べたキュウカが現れます。
キュウカは、その若き諸侯と共にサイフォン達将兵の働きを讃えて労うと、威勢を挙げて勝ち鬨を叫びました。
その勝利を歓び叫ぶ将兵達の声に包まれながら、キュウカは、唯、穏やかな笑みを浮かべていました。
陥落させた砦城の中央にある宮殿に本営を誂えたキュウカは、そこに諸将・諸侯の全てを集めるとこの度の戦に於ける論功交渉を行い、副将たるサイフォン・ウリョウの常に自分を支えてきてくれた功を第一、それに次ぐモノとして決戦の勝利に繋がる方策に大いなる協力を示してくれた件の若き諸侯アルス・ヴァーナード伯の功積を評しました。
それに対し、アルスは、戦いの勝利はキュウカの計った方策によるモノであり、自分はそれに従っただけだと応えます。
キュウカは、アルスの言葉を聞き、それに同調する様に頷くサイフォン・ウリョウを始めとする者達を前に、自分が如何なる策を計ろうともそれを果たす将兵達の見事な働きがなければ、この様な勝利を得る事は出来なかったと決して譲りはしませんでした。
キュウカの自分に従う者達に対する篤実さを目の当たりにして、アルスは、彼に率いられる祥兵達が誇る強さの理由の答えを知ります。
そして、キュウカが、サ・ルサリアの女王へと奏じる戦勝報告の書簡に、自らの目で見た事実の全てを記した書簡を重ねて、国都へと届けさせました。
キュウカは、この戦を制する事により、遂に東大陸連合国盟主の喉下へと刃を突きつけるに至ったのでした。
この世に死に去り逝く生命が在るならば、新たに生まれ出る生命も在る事を想い、キュウカは、その意志を再び奮い起こしました。
キュウカは、その身の大事を考えリレイ・キョウナの二人を戦線より退けると、東大陸連合国との戦いに決着を着けるべく編成を新たにした兵を率いて出陣します。
諸将・諸侯達を連ね進軍するキュウカの姿には、それまでの憂いは微塵も無く、その威風堂々たる様相に彼の再起を疑う者はいませんでした。
キュウカは、先の大戦の敗北によって放置された状態にある東大陸南方諸国の北郡を次々に平定すると、その領郡を慰撫して見事に安定を取り戻しました。
着実なる進軍を以って領土攻略を果たして行くキュウカ軍に対し、連合国軍は、東大陸を南北に分かつ要衝に築いた大砦城に兵力を集めて備えとします。
正に要塞都市と呼ぶに相応しき堅牢な大砦城を目の当たりにして、その攻略の困難さを危ぶむ将兵達に対し、キュウカは、『この世に、人間が護っている限り、落せない城など存在はしない』と大胆な言葉を以って嘯きました。
大砦城の南方にある平原に全軍を展開させる陣容で配置したキュウカは、左右の両翼に備えたサイフォン・ウリョウの両将を副将に任じ、二人に一軍を預けると、『この度に攻めるべきは、堅固なる城に非ず。脆き人間の心だ』と告げた後、各々に敵の砦城の攻略を命じます。
キュウカの命に従いサイフォン達双将の軍が奮戦する中、キュウカは、自らが率いる兵を昼は休ませ、夜陰を待って銅鑼を鳴らし喚声を響かせて敵を乱しました。
キュウカ軍が昼に攻め夜に乱す戦いを続ける事は七日を過ぎますが、未だ敵を攻略する兆しは見えませんでした。
更に敵軍の内では、キュウカの戦法を見て、彼が自分達の籠もる砦城の攻略に対する策を得られず、唯、闇雲に攻撃と攪乱の策を計っているだけだと考える者達が現れ、夜陰に乗じた攪乱の策も効果を薄れさせていきます。
そして、その考えはサ・ルサリア諸侯達を皮切りにキュウカ軍の将兵達の間にも広まり始めますが、その副将たるサイフォン・ウリョウの叱咤鼓舞によって全軍の士気は保たれ続けました。
しかし、攻略の戦いが始まりより二十日を過ぎるに及び、遂に諸侯の内よりキュウカへの不信を語る言葉が現れ、それを鎮めようとしたキュウカに反発し一部の諸侯が配下の兵を率いて戦線を離脱するという事件が起こります。
それに対する諸将と兵達の動揺は大きく、更には、その報せを受けて敵軍の士気は大いに高まりました。
その状況を危ぶみ打開の策を計るべく本営を訪れたサイフォンとウリョウに対し、キュウカは、このままでは全軍の士気が下がり瓦解の危機すらも考えられると、明日の明朝に日が昇ると共に全軍による総攻撃を行うと命じます。
双将は、事の此処に到っては力攻めも致し方ないとキュウカの命を承知し、彼と共にその決戦に臨む覚悟を決めました。
愈々の激しい戦いを覚悟して浅い眠りに身を委ねるサイフォンは、自らの陣の北方、正に敵の砦城より突如として巻き起こった激しい喚声を耳にして、敵軍が討って出たのかと一気に目を覚まします。
その身に鎧を纏い兜に手を掛けるサイフォンの元に、キュウカの使者としてシェーリーが現れました。
キュウカと同じ軽鎧の戦装束に身を包んだシェーリーから、今直ぐ配下の祥兵達を率いて自分と共に出陣するように告げられたサイフォンは、キュウカが敵を欺く為に自分達味方までも欺いていた事を悟り、苦笑を浮かべて快諾します。
シェーリーの案内の元、敵の砦城の西門へと通じる間道を密かに抜けたサイフォンの一軍は、既に開かれた守衛門より一気に中へと攻め込みました。
そこには、南門より攻め込んでいたウリョウの一軍が奮戦する姿が在り、サイフォンに率いられた将兵達もこれと連携して次々に敵の兵を蹴散らしていきます。
更には、キュウカの影武者として、その偽兵の一隊を率いたシェーリーの攪乱によって、敵軍は大いに浮き足立ちました。
混乱し総崩れとなった敵軍の残党を北門より追い散らしたサイフォンとウリョウ達の前に、キュウカと諍い最初に戦線より離脱した筈の諸侯と轡を並べたキュウカが現れます。
キュウカは、その若き諸侯と共にサイフォン達将兵の働きを讃えて労うと、威勢を挙げて勝ち鬨を叫びました。
その勝利を歓び叫ぶ将兵達の声に包まれながら、キュウカは、唯、穏やかな笑みを浮かべていました。
陥落させた砦城の中央にある宮殿に本営を誂えたキュウカは、そこに諸将・諸侯の全てを集めるとこの度の戦に於ける論功交渉を行い、副将たるサイフォン・ウリョウの常に自分を支えてきてくれた功を第一、それに次ぐモノとして決戦の勝利に繋がる方策に大いなる協力を示してくれた件の若き諸侯アルス・ヴァーナード伯の功積を評しました。
それに対し、アルスは、戦いの勝利はキュウカの計った方策によるモノであり、自分はそれに従っただけだと応えます。
キュウカは、アルスの言葉を聞き、それに同調する様に頷くサイフォン・ウリョウを始めとする者達を前に、自分が如何なる策を計ろうともそれを果たす将兵達の見事な働きがなければ、この様な勝利を得る事は出来なかったと決して譲りはしませんでした。
キュウカの自分に従う者達に対する篤実さを目の当たりにして、アルスは、彼に率いられる祥兵達が誇る強さの理由の答えを知ります。
そして、キュウカが、サ・ルサリアの女王へと奏じる戦勝報告の書簡に、自らの目で見た事実の全てを記した書簡を重ねて、国都へと届けさせました。
キュウカは、この戦を制する事により、遂に東大陸連合国盟主の喉下へと刃を突きつけるに至ったのでした。
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